写研書体がDTPに蘇るか
2024年 一般商業印刷、放送業界におけるテレビ番組のテロップ、各種屋外掲示物などで広く使われてきた写研書体が帰ってる。
1990年代後期まで商業広告の日本語書体として人気のあった写研書体、DTP普及に伴い業界から忘れ去られようとしていましたが今蘇ろうとしています。
「写研」日本語書体は今から40年程前写真植字機(写植)で使われていた書体で、筆記体は縦に並べた時が一番美しく、特に明朝体と呼ばれる書体は人気でした。書体のバリエーションも多種多彩で、クライアントからの要望も多く業界ではまた各文字盤が高価で頭痛のタネでもありました。
ナールファミリー・ウエイト11書体
人気のあったゴナDB ファン欄B
スーシャ・ウエイト4書体 ゴーシャ・ウエイト5書体
MacintoshとアドビによるDTPデザインと電子出版普及に伴い、アドビは1986年、国内トップメーカーであった写研に提携を持ち掛けたが、絶頂期にあった写研はこれを拒否。最終的にアドビは業界2位のモリサワと提携し、「モリサワ」はデジタルフォントを発売しましたが、「写研」はDTPへのフォント提供はしませんでした。写研は市場から渇望されていた書体を数多く持ちながら、その市場を限定的なものにしてしまいました。
共同開発するのはモリサワでモリサワフォントは現在広告業界では標準フォントの位置を確立しています。写研フォントの開放発表は2022年11月24日でしたが、第一弾としてはOpenTypeフォント「石井明朝 」・「石井ゴシック」系の3書体を予定している様です。写研フォント市場投入は10年程前話があった様でしたが、立ち消えになっています。
元々写研とモリサワは「写真植字研究所」という会社を共同で立ち上げ開発に携わっていましたが、「写研」は東京、「モリサワ」は大阪と別々のライバル会社に別れました。
多くの業界関係者、デザイナーの期待は写研フォントのDTPへの開放でしたが、止む無くモリサワフォントへの移行を余儀なくされてしまいました。
当時写研の書体は印刷物の80%のナンバーワンのシェアを持っていたので、書体と組版機器は自社製という立場だった様です。
「写研」日本語書体見本
参考までにどんな書体だったのか見ておくことも無駄ではないと思います。覗いて見て下さい。
写研の書体
https://archive.sha-ken.co.jp
最盛期には手動写植機一台と通常使用書体の設備投資で1千万円、電算システムでは一台数千万円から1億円位の設備投資が必要でしたので、経営方針を変えるつもりはなかったのでしょう。
写植業は先端の技術でしたので、設備の予算と技術があれば誰でも起業できました。関東にも大阪にもスクールがありましたので、起業する人も多くオペレータの人材不足をも巻き起こしました。また広告業界は不景気になれば活性すると言われる世界なので、仕事はあるが外注先がないという現在とは正反対の忙しさでした。
どのくらい収益があったか、当時私も驚いたニュースです。
1999年1月、写研は所得隠しと粉飾決算の疑いで国税庁の査察を受け、社内の地下金庫で前例のない現金約85億円の裏金が見つかっています。
一億円平積みで高さ8メートル50センチ、重さで850Kgです。地方銀行ですと本店地下金庫ですね。この位メーカーも収益がありましたし業者も頑張り甲斐がありました。
低コストの利点を持ったDTP普及により写植機器の時代は終焉を迎えましたが、写研フォントの300種に近い日本語書体は一般商業印刷、出版社、放送業界にとっては歓迎です。しかしOpenTypeフォントへのJIS文字セットは膨大な手間と時間が掛かります。私など馴染みがあり好きなメーカーですが、現役のうちにまたお目に掛かれるでしょうか。